俺の新妻~御曹司の煽られる独占欲~
 

親孝行だと思ってしばらくの間は我慢して、父の気が済んだら今度こそ家を出よう。
自分の生活費が稼げれば職種にはこだわらないし、贅沢も高望みもしないから、自立して平凡で質素で自由な生活を送るんだ。

そう思っているうちに、もうすぐ一年がたつ。
一年たっても父はあの調子で、さすがに私も焦りを感じてきた。

まさか一生このまま過保護な両親の元、家業の手伝いをし続けるの……?

そんな未来を想像して慌てて首を左右に振る。

そんなのいやだ。

たしかに歴史ある旅館を継ぐのも立派な仕事だけど、それの役目は弟の隼人に譲りたい。
そう思うのは、私が老舗旅館【日野屋】を継ぐ器じゃないから。

歴史を感じさせる門をくぐれば、伝統的な日本建築の建物がそびえ立つ。
ロビーには格子状の高い天井に季節の花々を描いた色鮮やかな天井絵。
客室からのぞめる美しい日本庭園に、金箔が使われた煌びやかな襖絵がある大広間。
そして檜を贅沢に使った源泉かけ流しの温泉に、季節ごとに地元でとれる食材をふんだんに使い贅をつくした和食でのおもてなし。

日常を忘れさせ優雅な時間を過ごせることが売りのこの高級旅館の長女として育った私は、贅沢にも優雅さにもあまり興味がないのだ。


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