夢はダイヤモンドを駆け巡る
 その中にあって、わたしに一切視線を送らぬ人間がいた。

 彼はてんこ盛りのギョーザを箸で一つ一つ摘み上げ、口に運んでいる――その名は小神忠作。

 もとはと言えば小神のせいであるのに、全く悪びれない様子ではないか!

 わたしは一瞬、その場で幼子のような地団太を踏みたい衝動に駆られたが、当然、我慢した。

 高校二年生の女子ともあろうこのわたしがそんな幼稚な感情表現に走るわけにはゆくまい。

 小神がギョーザを食していると、それが冷凍ギョーザであることを忘れてしまうようなあの上品なお作法は健在だったし、あの始まると止まらないマシンガントーク術もやはり健在だった。

 休みがちになる前と現在で、その辺りの習慣は何一つ変わっていない。

 でも何もかもが以前と同じというわけでもなかった。

 それを明確に言語化することは難しいけれど、彼の放っていた独特のピリピリとしたオーラが軟化したように感じられるのである。

 ありていに言えば「人が丸くなった」というやつだろうか。
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