夢はダイヤモンドを駆け巡る

第5話

「なるほど」

 わたしが夢の一部始終を話し終えると、小神は眉根を寄せて、二三度頷いた。

 普段は見られないほどの深刻な表情をしている。

 その様子はわたしに、患者の体内に進行中の病気を発見した医者の姿を連想させた。

 何だか不吉な感じ。

「よくわかりました」
「何がわかったんですか?」

 わたしはスプーンを置き、身を乗り出す。

「星野さん、驚かずに、そして私を馬鹿にせずに冷静に話を聞いてほしいのです」

 ごくん、とわたしは唾を飲み込んだ。一体小神の口からどのような驚くべきこの世の真実が語られると言うのだろう。わたしは背筋をぴんと伸ばし、何を言われても驚かぬよう心積もりをする。さあ、来い!




「あなたには――超能力があります」






 あなたには、ちょうのうりょくがあります。


 ちょうのうりょく? ちょーのーりょく?
 ちょうのうりょくって、超能力?

 わたしの脳内でその音が漢字変換されるまでかかった時間は七秒。通常の会話だとものすごく遅い部類だ。

〝超能力〟。

 今、わたしの耳と頭がおかしくなければ、小神はわたしにこう言った。あなたには、超能力があります――と。

「……ははっ」

 無意識のうちにわたしは鼻で笑っていた。乾いた笑い声、というのはこういう声を指すのだろう。

 わたしはグラスを握り続けた結果すっかり氷が解けてほとんど水になってしまったオレンジジュースを口にする。もうジュースなんだか、水なんだか分からない。

 いや、味が分からないのはひょっとすると、氷が解けているせいではなく、動揺しているからかもしれない。



 
 とうとう、小神の頭はおかしくなってしまったらしい。



――というのが、この数秒でわたしが得た結論だった。



 おかしいのはわたしじゃない。小神だ。



「星野さん、あなたは今さぞかし驚かれていることかと思います。きっとあなたは今胸中で『とうとう、小神の頭はおかしくなってしまったらしい』などと思われたことと思います」

「よくわかりましたね!」

 わたしがほんのちょっぴり驚いたところで、小神は悲しげに頭を振る。あんたがことごとくわたしの脳内の言葉を読みとれているその能力の方がよっぽど超能力らしいのですが。

「超能力も信じられないなんて、ずいぶんと寂しい人生ですね」

「寂しい人生で悪かったですね」

 小神の人生はさぞかしにぎやかなことだろう。毎日カーニバルが催されているに違いない、頭の中で。

「私が超能力と呼んだものはれっきとして存在しているものなのです。とはいえ、それはずば抜けた暗算能力や速読、あるいは絶対音感の類のものを意味しているわけではありませんよ」

 その小神の言葉がさらにわたしを混乱させた。

 確かに、フラッシュ暗算の達人なんかを見ていると「これって超能力の一種みたい」と思ってしまうことがある。

 でも今小神が言っているのはそう言ったどちらかというと平穏な類の超能力のことではないらしい。

 ソッチの超能力ではなく、アッチ――すなわち、「ヤバい」方の超能力のことなのだ。

 本当にそんなものが存在するのか?
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