夢はダイヤモンドを駆け巡る
 こんな変人の上級生に絡まれるようになったのもこの食堂がきっかけだった。

 なんということもない出会いだ。

 別に、うっかり手を滑らせてカレーを小神にかけてしまったわけでも、お金が足りないところを助けてもらったわけでもない。

 この高校に入学間もない――たしか、ゴールデンウィーク明けのある日、わたしが日替わりランチを注文しようと食券を購入していたところで小神にこう話しかけられたのだ。


〈きみ、日替わりランチを注文するなんてナンセンスだ。ギョーザを頼みたまえ、ギョーザを。
 ここのギョーザは一級品なのだよ〉


 こう話しかけられた時点でわたしは小神を無視すべきだったのだ。

 だいたい高校生の昼食にナンセンスも何も、ないはずだ。

 しかし初々しく無防備だったわたしは、思わず

「ギョーザなんて食べたくないです。口がにおって午後の授業に出られなくなるじゃないですか」

と反論してしまったのだ。

 それに対して小神はただ一言、「小物ですね」とだけ呟いた。

 もちろんわたしはカチンときたが、それ以上何も言い返さず日替わりランチを注文した。




……たしかにあの時食べた日替わりランチは、小神の警告した通り、信じられないくらいまずかったのだけれど、そのことは小神には打ち明けていない。

 認めたら負け、のような気がするからだ。

 わたしからすれば、「たったそれだけ」の短い会話なのに、小神としてはそれだけで「充分」だったらしい。




 その日を境に、小神にとってわたしはどうやら「面倒を見てやらねばならない可愛い後輩」となってしまったのだそうだ。

(後から本人が直接わたしにそう言ったのだ。「可愛い」なんて言うな!)

 それからというもの、校内にいると何かと小神はわたしに絡んでくるようになった。

 無理矢理用件を作り上げて、しつこいくらいに。

――というのが、わたしと小神の出会いである。
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