夢はダイヤモンドを駆け巡る
 さっぱりわからない。

 誇張でも何でもなく、率直な話、本当の本当に、わたしは今年になるまで松本くんのことを知らなかったのに、どうしてだろう。

 しかもわたしが仮に学年のマドンナだったり(ありえないけど)、天才的にテストの順位が良かったり(これもありえないけど)、部活のキャプテンだったり(まずわたしは部活に所属していない)、誰にでも話しかけちゃうくらい社交的だったり(人見知りとも社交的とも言えない性格だ)――

 何か一つでも〝目立つ〟資質を持った生徒であれば話はまだ分かるのだけれど。

 自分でもはっきりとこれだけはわかる。

――わたしは全くパッとしない人間だ。

 松本くんのように特別な人から目を向けてもらうような、輝かしい何かを持った人間などではないのだ。自分で言っててむなしくなるけれど、本当にそうなんだから仕方がない。

 今のわたしにある特別なものといえば――

 悔しいけれど、小神から移った、人の夢を覗き見る能力くらいだろう。

 とはいえ、この能力のことも未だよく理解してはいないのだけれど。

「どうして、松本くんはわたしなんかのことを知っていたんだろう」

 ぽつり、とこぼれるようにして出たわたしの言葉に、小神は耳ざとく反応を示した。

「『わたしなんか』、と卑下するほど、あなたは下らない人間ではないはずですよ。
 私から見てあなたは大変魅力的な人物です――数学がもう少しできるようになり、もう少し規則正しい生活をし、もう少し先輩を敬う癖さえ付ければ」

 さりげなく駄目出しされたんだけど……。

「さて、あなたにとっての最大の疑問は、なぜ一年生のその時期に松本くんがあなたのことを知っていたか、ですね。それは私が見た松本くんの夢の内容をお話すれば納得いただけるはずです」

 そこで小神は――珍しいことに……本当に珍しいことに、ふっと笑みをこぼした。

 もちろんそれは決して顔を崩して白い歯を見せるようなものではなかった。

 ほんの少し目を細め、口元を緩めるだけの笑みである。

 しかしそれは紛れもなく微笑だった。

 出会って以来、いついかなる時でも無表情を貫いてきた男の見せた新たな表情に、わたしは自然と目を引き寄せられる。

――この人は誰だろう。

 誇張でも何でもなく、その時の小神の顔は全くの別人に見えた。

 ただの変人奇人まるだし男のそれではない。まだ大人になり切らない、青春真っ盛りの男子高校生の一人といっていい風貌に、知性と論理性をエッセンスとして加えたような表情、とでも言えばいいのだろうか。

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