夢はダイヤモンドを駆け巡る
 野球がたったの「道具」に過ぎないのなら、どうしてあんな夢を見るっていうのだろう?

 本当は受験よりも勉強よりも、野球がしたいに決まっている。

 試験を放棄して野球場に向かう夢――わたしも小神もはっきりと見たのだ。

 どうしてその本心を誤魔化すのだろう?

「松本くんは野球好きなの?」

 尋ねると、空白が数秒。きっとどんな嘘をつこうかと必死に考えているに違いない。

「まあ、どちらかといえば好きだよ、そりゃ。じゃなきゃ続けられない」

 どちらかといえば好き?

 まさか。

 今日の試合のチケットを渡した時のあの嬉しそうな、少年みたいな表情は何だっていうの。

 どちらかといえば好き程度で夜中に素振りをする? 休み時間も制服のまま練習する?

 そんなこと、有り得ない。

 わたしは立ち止まった。

「松本くんって、わたしが思ってたより憶病なんだね。がっかり」

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