私の彼氏は真面目過ぎる!【完】
 きれいだな、とか好きだな、といった印象だけで終わらせていた今までの美術鑑賞とは違って、描きこまれたアイテムが何の象徴であるとか、この絵を描いた頃の画家の境遇や美術界での流行なんかについて語る結城さんは、生き生きとしていた。
 まるで美術の専門家のようで、彼が理系の研究者であることを忘れてしまう。

 というわけで、美術館そのものについては、結構楽しめたのだった。

「結城さん、年下の私から言うのも何なんですが……」
 美術館デートを終え、これまた予定通りだった近くのカフェのテラス席でタピオカミルクティーを飲みながら、私は言いたかったことを伝えてみることにした。

「お付き合いも始まったことですし、そろそろ“さん”付けで名前を呼ぶのはやめませんか? それと、敬語を使うのも」

 私の提案に、結城さんは首を傾げ、うーんと考え込んだ。

「その方が朝井さんにとってよろしいのでしょうか?」
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