私の彼氏は真面目過ぎる!【完】
「いえ、断じてそれはありません」
「うそよ」
 浩太郎はその言葉にしぐさで否定を表した。道川さんの目をまっすぐに見据える。

「あなたのおかげで僕は学習することができました。
 僕にとってお酒は人に迷惑をかける原因になる、と。
 あれ以来あなたにしでかしたような失敗は繰り返していません。
 勉強になりました。その意味で僕はあなたに感謝をしています」

 熟練のアナウンサーが物語を読み上げるように、ゆっくりと明瞭に彼は告げた。

 それはこの場をしのごうという計算から出てきた言葉ではない、というのは当時のことを知らない私にでもよく呑み込めた。

「そんな……」

 雲一つない夜空を仰いで、絶句する道川さん。
 天を仰ぎ見た道川さんは、言いたかった言葉(もちろん罵詈雑言)を抑えようとしているかに見えた。

 先ほどまでとはトーンを変えて、浩太郎は彼女を労い始めた。

「あなたは僕に迷惑を――セクハラとののしられても仕方のない迷惑を掛けられても、そのあとも研究に熱心に打ち込んでいましたよね」
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