私の彼氏は真面目過ぎる!【完】
 なんて思ったのも、つかの間のことだった。


 母が「村田さんのところに抗議に行ってくる」と出た隙に、ボソリと一言。

「その男の人の言うこと、うちの村でも当然あったぞ」

「え?」

「女は男の言うことを黙って聞くもんだ。主人がよそで女を作ろうが何をしようが、黙って付いていく。父さんの親父やその仲間はよくそう言ったもんだ」

「はあっ?!」

 反論しかけたものの、父は手でそれを遮る。

「父さんはお前を自由に育てた。だからそうやって反論をしようとする。
今の日本ではごく当たり前で健全なことだ。
でも父さんたちの世代はそうじゃなかった。
女が男に――特に父や主人の言うことに逆らうなんて、ありえないことだった」

「……じゃ、おばあちゃんも……」

 穏やかで物腰柔らかな祖母のことを思い出す。
 父はゆっくりと頷いた。

「ひばり、結婚は――世の中は、甘くないぞ」

 普段はこんなこというタイプの人間ではない父。
 いつも呑気でテレビが大好きでいつでも畑のことばかりの父が、世の中について持論を語りだすなど、見たことがなかった。

「お前は男女平等だとか、女性の権利だとは当然認められるべきものだと学校で習ったことだろう。
 だが残念ながら今の日本であっても、その『当然』がどこでも通じるとは限らない」
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