私の彼氏は真面目過ぎる!【完】
 実を言うと、婚活パーティーというのは結構騒がしい場所なのだ。
 簡単なパーテーションで区切られただけの室内では、当然近隣ブースでの会話が聞こえてくることになる。

 現在も、4番ブースに移動した5番さんの「君は71点だね!」という声が普通に聞こえてくる。
 やっぱり5番さんは失礼な人だ……
 あれ? 71点?
 ひょっとして最初に「40点」と総合点を付けて、「あなたはそれよりも高い」と褒める戦略なのね?
 誰がそんな戦略に乗るんだよ!!!

 と、再び怒りが湧いたところで。


 これほどざわざわと話声の漏れ聞こえるブースにおいては、6番さんの言葉は、ほとんど聞き取れないのであった。コミュニケーションが困難極まりない。
 細身に、か細い声。
 きっともともとあまり声量のない人なのだろう。残念ながら、戦う場が――周辺状況が悪すぎた。

「ごめんなさい、もう少しだけ、大きな声で話してください」
 私がお願いすると、唇の動きがピタリと止まった。

 見る見るうちに、6番さんの表情が悲しみに覆われる。眉は下がり、目は涙でうるうると光りだす。

……待って待って、まさか泣かないよね?

 消え入りそうな声で6番さんはこう言った。
 多分。
 私が一生懸命研ぎ澄ました聴覚が間違っていなければ。

「だから僕はダメなんだ……いつだって僕の声は誰にも届かない……営業先でも怒られるし、上司には呆れられるし……さっきの女の人にも小言言われたし……」

「そこまで自分を責めないでくださいー!」

 思わず両手をぶんぶん振って6番さんの言葉を遮る。
 このままじゃ、自己否定ワードの連続で6番さんが本当に泣き崩れてしまいそうな予感がしたのだ。

 この人、体と声も細いけれど、神経も細いな!

 私も自己否定の沼に足を引き込まれたことのある人間だから、年下ではあるけれど少し励ましたいと思った、その矢先。

「お時間が来ました~」の声。

 8分は、相手の欠点をフォローするには短すぎる!
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