それでも君を
「梨央っ、じゃあまたね!」



颯くんへの引き渡しに成功した結愛は、あっという間に帰路へと向かう。



私にも元気よく声をかけ、今日私を迎えに来たときと同様、颯爽と診察室を去って行ってしまった。



結愛が帰ると同時に診察室には静寂が訪れる。



その沈黙を破ったのは颯くんの低い声だった。



「で、また俺に隠し事か?」



颯くん、怒ってる。



「…こんなの、大したことないって思ったんだもん。」



「あのなぁ、梨央は免疫抑制剤飲んでるの。人より感染症にかかりやすいし、重症化しやすいって何度説明したら分かるんだよ?」



分かってるもん。



分かってるけど、颯くんに言ったら病院に来ないといけない羽目になるから嫌なんじゃん。



「理解は、してる。」
 
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