それでも君を
「ねぇ、先生は人に針刺すの怖かったりしないの?」



「えっ、どうしたの急に。」



話の流れが見えなさすぎて、先生が困惑している。



「先生も針刺されたら痛いでしょ?それを人にするのってどんな気分?」



私からの追加説明を聞いて、なんとなく察してくれたのか、先生が、ああ、と頷く。



「なぜ痛いと分かってることを人に出来るの?って話だよね?」



先生からの確認にうん、と返事をする。



「そうだなぁー。大学で勉強を重ねて、それが患者さんにとって必要なことだと理解してるからかな。」



頭で考えながら、それを真っ直ぐ言葉にしてくれる水沢先生。



「例えばさ、目の前の患者さんを助けたくて、薬を処方したいんだけど、処方するにはその症状の原因が何かを知らないといけないでしょ?そしたら、嫌でも検査して原因を突き止めることが、患者さんにとって為になることだと理解してるってこと。それが痛いことでもね。」



うーん、倫理的で難しいけれど、なんとなく分からなくもない。



「もちろん痛くなくて、患者さんの負担にもならない検査があればそれを選択するよ。けど、今の医療ではそういう技術はまだないからね。心を鬼にして、やるのみ、かな。」

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