それでも君を
辺りを見回すと夕方ということもあってか、もうほとんど患者さんの姿はない。



やんわりと立ち上がる私を見兼ねて、すでに立ち上がっていた結愛が私の鞄を持ってくれる。



そのまま結愛に手を引かれてたどり着いたのは診察室3と書かれた扉の前だ。



中へ入るのを躊躇、なんてする暇もなく、結愛に背中を押される形で、自分の意思とは裏腹にあっという間に診察室へと入ってしまった。



「こんにちは!颯くん先生、後はお願いしますっ!」



私の背中からひょこっと顔を出した結愛は、元気よく颯くんに挨拶をする。



「結愛ちゃん、いつもありがとね。後は任せて。」



颯くんが優しい口調で結愛に言葉を返すのを、私は黙って見守る。

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