世界で一番、不器用な君へ
やっと平穏な日々が始まる。
そう思ったのは、間違いだった。
「ちょっと、アンタ蓮くんと付き合ってるってほんと?」
人生で初めて、呼び出されました。
しかもまたこれ…
「いや、あの、違います…全然そういう感じではなくて、ほんとにただの…」
友達、と言いかけて、胸がモヤっとする。
友達、なのかな、私たち。
…蓮は、そうは思ってないかもしれない。
ちょっと秘密を知ってしまった、口うるさいクラスメイト兼マネージャーくらいにしか…
「ただの、クラスメイトです…」
「ふーん?」
疑いの眼差しは消えそうにない。
集めたノートを職員室に届けに行こうと思ってたのに…
いけると思って一気に持ってきたのに足止めを食らったせいで手が痛い。
あーもうしつこい!絶対ありえないって言ってんじゃん!
って言えたら楽なんだけどなあ…先輩だし、一応。
愛想笑いが、ひきつる。
「ちょっと、聞いてんの?」
「あくまで抜け駆け禁止なんだからね?蓮くんはみんなの…」
「あれ、先輩たち?なにやってるんですか〜」
声に顔を上げると、ニコニコとさわやかな笑顔で蓮が立っていた。
「蓮くん、あのね、これは…」
「お話中すみません、い…雨宮、先生が急げって」
「あ…」
「ごめんねーなんか呼び止めちゃって」
「じゃあね!蓮くん」
手を振って階段を上っていく先輩たちに、蓮は笑顔のまま軽く会釈する。
「…ありがと」
私はそれだけ言って蓮に背中を向ける。