世界で一番、不器用な君へ
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キュ、キュ、とスパイクが床をこする音があちこちで響き渡る。
私はメニューをちらりとみてホイッスルを鳴らす。
「はい、次ー!」
大丈夫、順調だ。
「一花」
ドクン。胸が、大きく鳴る。
「…お疲れ様です、大和先輩」
汗を拭きながら、先輩はにっこり笑う。
「今日も順調だな。さすが、頼りになるな」
大きな手が頭を撫でる。このあたたかさが、中学の頃からずっと好きだ。
「先輩、左足痛みます?」
「…ほんと、さすがだな」
一花にはお見通しだ、そう言って笑う先輩に、私は「マネージャーですから」と何気ない返事をする。
「テーピングしますね」
「悪い」
私の鼓動は、先輩といる時はいつも少しだけ大きくて、速い。
中学1年、先輩のプレイに一目惚れして、バスケ部に入って、マネージャーとして支えてきて。先輩が卒業する時に、「寂しくなるな」と言われて同じ高校に入ることを決意した。
そして、またマネージャーとして1年側にいた。
ずっと、ずっとみてきた。
先輩のこと、分からないわけ、ない。