世界で一番、不器用な君へ





「…蓮?もう、寝た?」


声を潜めてドアに向かって話しかけるが、返事はない。


なんか、きそう。


ぶるっと身震いして、私はドアを開けて中に入る。


ごめん、蓮、許して。


そっとベッドの横まで行くと、寝息を立てて熟睡する蓮。


…起こすのは流石にかわいそうだよね?


うう、でももう外に出たくもない。


ちょっと、小さい声で呼んでみる?


「おーい、れーん」


「ん…」


あ、起こしちゃった!?


そう思った次の瞬間、ものすごい力で手を引かれた。


「っ…」


心臓がけたたましい音を立てている。


もう少しで、叫ぶところだった。


顔を上げると、すぐ目の前に蓮の整った顔。


腕を動かそうとするけど、ビクともしない。


目だけ動かしてみると、蓮の手がしっかりと私の手首を握っていた。


よ、よかった…幽霊じゃなかった…


って、別に、信じてないけどね。


動くこともできないので、蓮の顔をとりあえず眺める。


…ほんと、顔だけは整ってるから。


まつげ長いし、肌は毛穴ひとつないし。鼻高っ。顎シュッとしすぎ。


くっそお、女子より綺麗なんじゃないか?


…あ。蓮のにおいが強い。


いつもよりも、お風呂よりも強い。


やっぱり落ち着くな。安心する。


ずっとここにいてもいいかなって、不思議と思うようなにおい。


あー、なんか心地いいかも。


蓮がいるなら、怖くないや…

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