世界で一番、不器用な君へ


***


絶好のチャンスがやってきてしまった。


タオルを握りしめる手が震える。


ふーっとゆっくり息を吐いて、うるさい心臓を落ち着ける。


すぐ目の前に、水飲み場で髪を洗う先輩がいる。


今は、2人きりだ。


「先輩っ」


少しだけ声が裏返る。


「おー、お疲れ」


「お疲れ様です!」


駆け寄って、タオルを差し出す。


「ふっ…なんか緊張してる?」


タオルを受け取る先輩と指がぶつかって、落ち着けたはずの心臓がまたうるさくなる。


「なんかあった?」


優しい声で先輩が言う。それだけで、嬉しくて、胸がキューッと締め付けられる。

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