世界で一番、不器用な君へ



人混みを抜けて、神社の脇を通る。


少し境内に入ってみたが、ここにはいなそうだ。


神社を後にして、しばらく走ってから、前に見覚えのある背中が現れた。


「っ一花!」


腕を、思い切り引く。


「…え?蓮?なんで…」


「っ…はあ…なんで、お前が…一人なんだよ」


なんとか酸素を肺に吸い込み、呼吸を落ち着かせながら俺は言う。


「…ユカさんと、偶然会ってね。泣いてたから…」


「だから?約束してたのは一花だろ」


「先輩は!…大和先輩は、ユカさんが好きなの。すごく、すごく好きなの」


俯いていて、一花の表情が見えない。


「…別れても、好きなの」


絞り出したような一花の声が、震える。


「私、恥ずかしいよ。ちょっとでも期待した自分が、恥ずかしい。後輩の一人にすぎないって、あんなに自覚してたのに。大和先輩が、ユカさんのこと本当に大好きなの、誰よりも知ってたのに」


ほんと、バカみたい。


そう言って、ヘラっと笑う。


泣きそうな顔で、笑う。


「…そんな風に笑うなよ」


肩を引き寄せて、抱きしめる。


手の中にすっぽり収まる、震えた体。


凶暴でも、ゴリラでも、残念美人でも。


こいつはやっぱり、女の子なんだよ。

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