世界で一番、不器用な君へ
「一花!待てって」
逃げるようにコートの外に出た私を、蓮は走って追ってきた。
「何?戻って休憩してなよ」
「なんでそんな怒ってんだよ」
「別に怒ってない」
声が、尖っているのが自分でも分かる。
こんな風に言いたいんじゃないのに。
「さっきのは、違うから」
「別に、蓮が巨乳好きだって知ってるから。どうせ私はちっさいですよ」
「お前な…確かに俺は巨乳好きだけど」
唐突に手をつかまれ、スッと持ち上げられる。
「お前じゃなきゃ意味ない」
「ちょっ…蓮!」
手に、蓮の唇が触れそう。
かき乱されたくない。
「一花のことが好きだよ。お前の全部が、かわいい」
顔が、熱い。
だって、蓮が私のことかわいいなんて、一度だって言ったことなかったのに。
「っ、分かった、から…」
もう離して。
「ていうかそんなに怒って、もしかしてヤキモチ?」
ちゅ、と音がして、蓮の唇が私の手の甲に触れた。
コイツは…!
「ばかっ!違う!調子のんな!」
手を振り払って、逃げるようにコートの中に戻る。
壁に背をついて、その場にへたり込む。
掌で触れた顔が、想像以上に熱くて。
「もう、おさまってよ…」