世界で一番、不器用な君へ


「ねえ、かっこいいね」


「うひゃあっ」


突然耳元で声がして、思わず変な声をあげてしまう。


いつのまにか恵里さんが横に立っていた。


「いいんですか?練習見てなくて…」


「あーいいのいいの、私はそういうの求められてるマネージャーじゃないから」


それは、どういう意味だろう…


ちょっと不思議なひとだ。


「それより、イケメンだね」


「えっ…」


私はコートでボールをつく大和先輩を見る。


まさか、恵里さんも…


「あの子」


恵里さんが指差したのは大和先輩とは真逆の方向で。


「蓮ですか?」


「蓮くんっていうんだ、あの子」


かわいい〜と言いながら蓮を見つめる目が思ったより本気でゾクッとする。


「彼女いる?」


「…いないです」


「ほんと!?じゃあ狙っちゃおっかな」


ニコッと女の子らしい笑顔を向けられて、戸惑う。


なんでわざわざ私に言うの?


「…いいんじゃ、ないんですか。蓮も、恵里さんのこと気に入ってたみたいだったし」


「えー!それは素直に嬉しい」


頬を赤らめる恵里さんが、なんだかものすごく遠く感じる。


かわいらしい。女の子らしい。


そんな言葉が、本当に似合う。


私とは、違う。


恵里さんとか、ユカさんみたいな、感情を素直に出して、守ってあげたくなるような女の子らしさを持ってる人が、男の人は好きなんだろうな。


私には、きっと一生なれない。


そんなの、わかってるのに。


羨ましい、なんて思うだけ無駄だ。

< 178 / 190 >

この作品をシェア

pagetop