世界で一番、不器用な君へ
「ねえ、かっこいいね」
「うひゃあっ」
突然耳元で声がして、思わず変な声をあげてしまう。
いつのまにか恵里さんが横に立っていた。
「いいんですか?練習見てなくて…」
「あーいいのいいの、私はそういうの求められてるマネージャーじゃないから」
それは、どういう意味だろう…
ちょっと不思議なひとだ。
「それより、イケメンだね」
「えっ…」
私はコートでボールをつく大和先輩を見る。
まさか、恵里さんも…
「あの子」
恵里さんが指差したのは大和先輩とは真逆の方向で。
「蓮ですか?」
「蓮くんっていうんだ、あの子」
かわいい〜と言いながら蓮を見つめる目が思ったより本気でゾクッとする。
「彼女いる?」
「…いないです」
「ほんと!?じゃあ狙っちゃおっかな」
ニコッと女の子らしい笑顔を向けられて、戸惑う。
なんでわざわざ私に言うの?
「…いいんじゃ、ないんですか。蓮も、恵里さんのこと気に入ってたみたいだったし」
「えー!それは素直に嬉しい」
頬を赤らめる恵里さんが、なんだかものすごく遠く感じる。
かわいらしい。女の子らしい。
そんな言葉が、本当に似合う。
私とは、違う。
恵里さんとか、ユカさんみたいな、感情を素直に出して、守ってあげたくなるような女の子らしさを持ってる人が、男の人は好きなんだろうな。
私には、きっと一生なれない。
そんなの、わかってるのに。
羨ましい、なんて思うだけ無駄だ。