世界で一番、不器用な君へ
「どれどれ…」
コーチの声が襖一枚挟んで聞こえてくる。
咄嗟に蓮に引っ張られて入ったのは、部屋の押し入れ。
視界が暗い。
聞こえてくるのは、コーチが荷物を確認する音と、蓮の息遣い。
心臓の音が、外に聞こえるんじゃないかってくらいに鳴っていて。
鼻をかすめる石けんの匂いに、心臓が更にうるさくなる。
男風呂も、同じ石けんなんだ。
視界がだんだんはっきりしてきて、蓮が思いの外近くにいることに気づく。
なんだか、落ち着かない。
狭い中で、なんとか後ろに下がろうとしたところで、グッと腰を掴まれた。
「動くな、バカ」
耳元で囁かれる声に、思わず顔が熱くなる。
お願いだから、もう…
足音が遠ざかり、扉が閉まる音がした。
コーチにはなんとか気づかれなかったようだ。