世界で一番、不器用な君へ


「ごめんねえ、もう売り切れちゃって」


「ハアッハアッ…ですよね」


申し訳なさそうな購買部のおばちゃんにお礼を言って、私は階段を駆け上がる。


少しだけ入りづらいけど、仕方があるまい。


1年2組の教室まで走り、中を覗く。


「カイ、ちょっときて!」


チラチラとこちらを見る視線を無視して、私は教室の中にいる一人の名前を呼んだ。


「一花先輩、珍しいっすね」


人懐っこそうな笑顔のカイは、うちのバスケ部の1年で、なんというか、食えないヤツだ。


「ごめん、一生のお願い!」


「ちょ、近いっす」


「明太チーズピザパン、私に譲って!金はいくらでも出す!」


「…そんなことで使うんすね」


ちょっと待っててください、と言ってカイは自分の机からパンを1つ持ってきてくれる。


カイが毎日これを食べてるって話、聞いといてよかったあ〜…


「ありがとう!マジで助かった!」


「先輩、そういうとこがモテない原因じゃ?」


余計なお世話だ。


「いってえ!」


強めのデコピンをお見舞いしてやってから、私は教室へ急ぐ。

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