世界で一番、不器用な君へ


ばか、なんで先行くの!


教室に向かって走る途中、やっと廊下の奥に蓮の背中を見つけた。


足が、自然と加速する。


あと、ちょっと…


「うわっ」


素っ頓狂な声が、頭の上から聞こえた。


どうしたらいいかわからなくて、思わず突進してしまった。


「いってぇな!野生動物かお前は!」


振り向こうとする蓮の背中に、頭を押し付ける。


顔を見たら、多分恥ずかしくて思ってないことを言ってしまう。


「なんで先行っちゃうの」


「…あのな、俺はお前に気を遣って」


「頑張ろうね、二人三脚」


少しの沈黙の後に、大きな手が私の髪を思いっきりかき混ぜた。


「ちょっ」


「あたりまえだろ、ばーか」


ゴツゴツした手。先輩の手とは違う、落ち着くっていうよりも、なんだかくすぐったくなるような。


「もー!髪ぐしゃぐしゃになる!」


「誰もゴリラのことなんて気にしてねえから!」


「あん!?」


体育祭まで、あと1週間。

< 71 / 190 >

この作品をシェア

pagetop