クールな彼とちょっとドジな彼女の恋の攻防戦(後日談移動しました)

インターホンを鳴らすと、向こうから彼の声が聞こえた。

「あの…桃寺です」

『今開ける』

しばらくして、ガチャとドアが開き、ドアの向こうから疲れた表情の向井さんがスーツ姿のまま出てきて、帰ってきたばかりなのだと思ったら申し訳なくなる。

「遅い時間にすみません」

「なに?」

まぁ、こんな時間に来る私が悪いのだが、彼の無愛想な態度に、また、胸が痛んだ。

「これ、この間、汚してしまった向井さんのニットです。お返しするのが遅くなってすみませんでした」

彼に向けて、紙袋を突き出したら、なぜか彼はぷっと笑った。

なぜ笑う?
笑われるようなことをしただろうか?

「いや、こっちこそ、わざわざありがとう」

クスクスと笑う彼が紙袋を受け取ったので、先程の態度の違いにムッとした私は、そのまま『おやすみなさい』といって帰ろうとしたら、彼に呼び止められる。

「スマホの画面、どうだった?」

あー、覚えてたんだ。

「フィルムだけだったので、気にしないでください」

「おれ、フィルムだけでも弁償するって言わなかったか?」

「そう聞きましたけど、たいした額じゃないので…」

ジーと不機嫌な顔で睨まれると、『いらない』と言いにくくなる。

お金をもらうわけにもいかず、悩んだ末に

「今度、出張でどこか行かれたら、ご当地の珍味を買ってきてください」
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