クールな彼とちょっとドジな彼女の恋の攻防戦(後日談移動しました)
「キレてるでしょ…あー、もういいです。兎に角、ご所望のシチュー持ってきましたから、どーぞ」
視線をそらして、こちらの顔も見ようとしない向井さんにイラだって、シチューの入ってる鍋を突き出せば、条件反射で彼は鍋を受け取っていた。
「じゃあ、鍋はいつでもいいので…おやすみなさい」
「…食べ終わるまで一緒にいろ」
「えっ?」
さっきまでの不機嫌な顔から、寂しげな表情を浮かべて、すがるように腕を掴んでいる姿に胸の奥がキュンとした気がする。
「あっ、いや…鍋を返しに行くの面倒だ、から、その…食べ終わるまで…待ってろ」
俺様な彼がそこに居て、やっぱりキュンとしたのは気のせいだと打ち消した。
「…じゃあ、向井さん家の鍋に移してきてください」
「…鍋なんてない」
私の返事に目を彷徨わせて返す言葉にプッと笑ってしまったのは、以前、お邪魔した時に鍋があるのを見ているからだった。
「えー、ありませんでしたか?前に見た気がするんですけど」
「空いている鍋がないんだ。…いいから、上がってけ」
私のしたり顔に動揺しつつ、彼は強引に私の腕を引っ張り部屋に上げた。
その強引さに、頬が緩むのはどうしてだろう?
「仕方ないですね…食べ終わるまで一緒にいてあげます」