クールな彼とちょっとドジな彼女の恋の攻防戦(後日談移動しました)
その鍋を取ろうとした片手が、彼の空いてる手に掴まれ、あっという間に体は彼の腕の中におさまっていた。そしてあわあわする私の唇にチュッと軽快な音を立てた不意打ちのキスをまんまと許していた。
一度ならずも2度、3度も…
注意していたにも関わらず、思わず悔しさでキッと彼を睨んで向井さんに向けて、『バカー』と叫び、部屋から逃げ出して慌てて帰った私は、自分のテリトリーに戻れたことにホッとしたのか、足元から崩れるように玄関内でへたり込んだ。
唇を無意識に触れれば、生々しく残る彼の唇の感触、耳には、軽く跳ねた音が残り、脳裏には、私の様子を見て、してやったりと笑ったていた彼の表情が残っている。
不意打ちのキスに意味なんてないとわかっているのに彼にキスされても嫌な気持ちにはならず、今、私の頬は完全に緩んでいて、引き締まらないでいる。
それに気がついた私は、自分の頬を両手で何度か叩き
違う…
違うから…
彼がキスしてくるのも、私をからかってるだけ…
そう思う事で、開きかけた心の蓋を閉めて立ち上がったが、スッキリするはずはなく、もやっとする。
いつ取り返したか記憶のない鍋をカウンターにおいた私は、脳裏に浮かんだ思考をシャワーを浴びて流してしまおうと浴室に向かった。