残り香
みるみるうちに大きくなったそれがポン!と一瞬にして消えたかと思ったら、その手には大きな鎌が握られていた。

「手品……」

「だと思うか?」

にやりと、男の右の口端が意地悪くあがる。
私はぶんぶんと首を横に振っていた。
あんな大がかりな手品のネタを、私の部屋に、私を起こさないように仕込めていたとは考えられない。

「じゃあ信じたな、死神だって」

今度は勢いよくうんうんと首を縦に振る。
男――死神は満足したのか、鎌を抱えたまま膝の上に両手で頬杖をついた。

「悪いけど、時間になるまであんたに張り付かせてもらうから。
あ、心配しなくても俺の姿はあんた以外に見えない」

そういえば警察に通報してもあたまがおかしくなったと思われるだけとか言っていたが、そういう意味だったんだろうか。

男が死神だとなれば、殺人者よりも確実に私の願いは叶うのだ。
なのに予定の時刻まで待つなんて、じらされたくない。
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