残り香
「ねえ。
その死亡予定時刻って絶対なの?
前倒しってできないの?」

暇なのか、柄を軸に鎌をくるくる回していた死神の手が止まる。

「まあ、できないこともない。
予定時刻はあくまでそいつが最大生きていられる時間だからな」

「じゃあ、さっさとやっちゃって」

びくんと大きく、死神の背中が揺れた。
ゆっくりと立ち上がって振り返り、じっと私を見下ろす。

「……未練はないのか。
やり残したことは」

さっきまでの軽い調子とは違い、死神の声は酷く重かった。

「ない」

やり残したことならある。
けれどそれはこの世では叶わない。

――あの世でなければ。
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