残り香
「やっぱりやめた」

閉じていた目を開けると、死神は鎌をポン!と消した。
再びベッドに座り煙草に火をつける。

「……やめたって、なに?」

私には早くあの世に逝きたい都合があるのだ。
一分、一秒でも早く。

「やめたってなんで!?」

肩を掴んでぐらぐらと揺らす。
死神はため息とともに煙草の煙を長く吐き出した。

「そう焦んなって。
ちゃんと向こうに連れて行ってやるから」

私の気持ちなんか知らずに、のんきに煙草を吸う死神に腹が立つ。
睨みつけたけれど、死神は堪えていないようだった。

「あっちは現世以上に煙草に厳しくってさ。
現世に降りないと煙草、吸えないの。
ゆっくりもう一本、煙草吸う時間くらい、ちょうだい?」

ふざけているのか本気なのかわからない死神に、気が抜けた。
ベッドの上に座り直し、死神が煙草を吸い終わるのを待つ。
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