残り香
……そういえばあの人も、よくこうやって私を待たせた。

滲んできた涙は死神の吸う煙草の煙が目にしみるせいにする。

ぼーっと死神を見ながら、吸っている銘柄があの人と同じだと気づいた。
あの人――柴崎(しばさき)さんは私よりも六つ年上で、上司だった。



「水城」

喫煙室の側を通りかかると、コンコンとガラスを叩く音がする。
書類を抱えたまま振り返った喫煙室の中で柴崎さんが、スクエアの黒縁眼鏡の奥から笑っていた。

「待ってろ」

頷いて、近くの壁に寄りかかる。
少しして煙草を吸い終わったのか、柴崎さんが喫煙室から出てきた。

「水城はミルクティだっけ」

私の返事なんか待たずに自販機の前に立ち、ちゃりんちゃちんと柴崎さんは小銭を入れていく。
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