残り香
「まあ、元気出せや」

ピッ、柴崎さんがボタンを押し、すぐにがこんと缶の落ちた音がした。

「そんなこともあるって」

腰を屈めて缶を掴み、私の方へと歩いてくる。
私の手を取ってぽんとミルクティの缶を乗せた。

「でも……」

課長に怒鳴られたのは私のせいだ。

社外メールでCCに入れるアドレスの順番を間違えた。
営業課長と企画営業課長のどっちが偉いかなんて判断はつかない。
さらには香川(かがわ)さんと香月(かつき)さんとややこしい。
しかしそれは言い訳でしかないのだ。

「俺はわざわざ課長に怒鳴り込むほどのことじゃねーと思うし、課長も水城に怒鳴るほどのことじゃねーと思うぞ」

くいっ、人差し指で柴崎さんがブリッジを押し上げ、レンズに光が反射してきらりと光った。
そのせいで、どんな顔をしているのかわからない。
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