オオカミは淫らな仔羊に欲情する
―― ココは、京都府内でも屈指の
おバカ(ど底辺)高校と言われている、
私立・壬生四条高校のグラウンド。
文武両面に於いて、あまり熱心ではない生徒達の
中にもスポーツに精を出す者はいて。
今日は、となり町の府立高校の野球部を招いて、
本校野球部との練習試合が行われていた。
尚、府立校・本校共に3年生はこの試合をもって
引退となる。
”カッキィ~~ン!!”
バッター、3年・キャプテン、笙野裕
(隆の弟)のフルスイングした
バッドが実にイイ音をたてて白球をかっ飛ばした。
そしてその白球は遥か彼方、
グラウンドの外へと飛んでいった。
相手チーム・ピッチャーの2年レジュラーは呆然。
まさか、打たれるとは思ってもみなかったのだ。
観衆が大歓声を送る中、はじめ、意気揚々と
ベースを回る。
一方打球の方はグラウンド沿いの道へ落ちて、
2・3度バウンドすると向かいの民家の
壁へ当たって道へ逆戻りして転がった。
そのボールを拾い上げたのは、高そうなスーツを
着こなした青年・鮫島 竜二 ――。
拾い上げたボールを手に、
さて何処から飛んできたのか? と
辺りを見回していると――、
「―― すみませ~ん」
近くの学校の裏門から小走りに出て来た生徒が声を
かけてきた。
3年生、和泉 絢音(いずみ あやね)
彼女はクラスメイトの打ったホームランボールを
彼の部活引退記念にしようと拾いにきたのだ。
竜二は振り返って絢音を見て、何故かドキッとして
立ち止まった。
「あ、あのぉ ―― ボール、投げてもらえます?」
竜二は笑顔で答えた。
「あ? あぁ、もちろん」
と、手元のボールを絢音に放ってから。
「ソレはキミが打ったの?」
「いえ、友達です」
何となく絢音は竜二が自分を妙に長く見つめている
ような気がした。
私の顔に何かついてるのかな――?
『フィガロ』のトイレでこの男と行きずりの
セックスをした事などキレイさっぱり忘れている
絢音は竜二にペコリと頭を下げるとクルリ背を向け
裏門へ走って戻っていく。
門を入る時チラリと見ると、竜二は足早に路肩へ
停めてある車の方へ行ってしまった。
何となくがっかりした。
もちろん絢音は竜二とその後とんでもない
係わり合い方をするとは、この時知る由もなかった。