オオカミは淫らな仔羊に欲情する
蒼い春
「泣いてどうにかなるもんならいくらでも泣くよ。
私だって裕と別れるの寂しいもん」
その言葉を受けた裕は、何を考えたのか?
絢音の手をしっかり握り締めたまま歩き出して、
自宅のすぐ先にある角を曲がり国道の方へと
歩みを進める。
「ゆ、ゆた ―― どこ、行くの?」
「ホテル。絢とヤりたくなった」
絢音は再び絶句した。
それから数分後 ―― 裕が目指した場所は本当に
ラブホだった。
しかし、玄関に入る直前で絢音が踏みとどまった。
「……あや?」
「……」
絢音は裕に握られていた手を強引に解いて、
元来た国道をずんずん歩き、2人の自宅に近い
河川敷についた所で止まった。
「やっぱり俺とじゃ、いや、か……絢は兄ちゃんが好き
なんだもんな」
「え ―― っ、どうしてそれ……」
「そりゃ判るよ。俺ら、幾つの時から一緒だと
思ってんの? 絢の視線の先にはいっつも
兄ちゃんがいるんだもん。さすがの俺も、何度も
諦めようって、思ったけど、無理やった……」
「諦めるってなに……」
「俺は絢、お前が好きだ。何時からなんて、分かんない
くらいずっと前から」
「ふぅ~……けど、こんな土壇場になって告られた私は
一体どうすりゃええん?」
「俺、兄ちゃんみたいにオトナの割りきった恋愛は
出来んから、その気がないなら振ってくれた方がいい」
「けど、私がここでオッケーしたとしてもうちら、
すぐ離ればなれになっちゃうんだよね」
そう言って、裕の胸に顔を埋めるようにして
大泣きする絢音。
裕は、何がなんだか、訳がわからず、ただ、
ヲタついてしまうばかりで……。
「……いいよ。でも、ラブホはいや」
そう言われ、裕はやっと気が付いた。
「あ ―― ご、ごめん、俺ってば、
全然気が付かなかった……じゃあ……あのさ、
兄ちゃん日曜まで帰ってこないから……
俺んちでいい?」
絢音は、コクンと頷いた。