Fall in Love. ~一途な騎士団エリートによる鈍感公爵令嬢の溺愛~
届け、俺の気持ち
「リリアンヌ様、朝ですよー。おはようございます。」

まだ薄暗い部屋にカーテンの開ける音と共に少しずつ光が差し込む。
まだ冬が明け切らないから厚手の毛布を首までかけて寝ている。
少し布団から出ただけでも寒い。

「んーー。おはよう、マリン。今日は天気がいいわね。」

時間通りに起きるのは得意。

毎日決まった時間に起きるから、目覚ましがなくても起きれるようになった。

私が布団から出て洗面台まで行く間に、マリンは布団をささっと整えている。

きれいに磨かれた鏡の前に映るのは少し寝癖の残る私。

「はい。もう春ですからね。」

「あったかいって嬉しいわ。

春物のドレスをそろそろ出しましょ。」

冬のドレスも好きだけれど、やっぱり春色は1番ウキウキする。

差し出してくれたタオルで顔を拭いた後、髪をとかしてもらいながら1日の予定を確認する。

「そういうと思っていました。もう準備ばっちりです。
しかも今日はリリアンヌ様の誕生日ですから。」

そう。実は今日は私の誕生日。

冬と春の変わり目の穏やかな日。天気の良さは抜群。

寝癖が消えて艶が出た髪を、満足そうに見ながら答えるマリンも、ドレスを出すのが楽しみにしているのが分かる。

「さすがマリンね。ありがとう。」

椅子に座り、軽くメイクをしてもらう。

「こちらをどうぞ。御当主様からの贈り物です。」

パーティーようのドレスをわざわざ用意してくれる。

「まぁ、、、お父様ったらまたこんなに豪華なドレスを買ってくれて、、、。」

娘が私1人しか生まれなかったのもあって、お父様は昔から私に激甘。

毎年山のようなプレゼントがもらえる。

「今年からやっと社交デビューなんですから、気合いが入ってしまうのも分かります。」

顔にふんわりと粉を叩きながら言う。

「そうね、、、めんどくさいわ。
憂鬱ね、、、。」

月に一度くらいある他家のパーティーでさえイヤなのに、社交シーズンになったら毎晩参加しなくてはいけない。

そんなの耐えられないと思う。

「そう、おっしゃらずに。もしかしたら運命の方に会えるかも知れませんよ?」

仕上げに口紅をぷっくりと中央だけに塗ってもらう。

「会える気がしないわ、、、。
ただ、疲れるだけな気がするのよね。
シェリー様も、面倒な時期がきたといつも仰っているもの。」

前髪のカーラーを外し、少し香油を塗る。

「御当主様もご期待なさっているのですから、もう少し張り切ってくださいな。」





「おはよう、リリ。19歳の誕生日おめでとう。
今年も1年リリに幸せが訪れますように。」

食堂は普通の貴族の家のように広々としているわけではなく、6人掛けのテーブル。

座る場所は決まっていて、お父様がもちろん上座。

正面のお母さんの椅子にはいつも使っていたグラスに1輪の花が咲いている。

お母さんの横に私が。お父様の隣にカイが座る。

「おはよう、リリ姉。誕生日おめでとう。
もうプレゼントは置いておいたよ。今年もよろしく。」

この国の風習では、1年の始めと誕生日に同じようなことを言う。

「おはよう、お父様、カイ。ありがとう。」

「それにしても、リリ姉が社交デビューなんて信じられないね。大丈夫なの?」

歳は1つ違うが、私よりも自立していて頼りになる。

「そこは私も心配だよ。リリが乗りきれるとは思えん。」

お父様はどんなに忙しくても絶対に家族との時間をつくってくれる、温かい人。

やっぱり2人ともそう思うのね。「自分自身でも無理だと思うの。毎日よ?」

シェフが毎日手作りしてくれている自家製パンにジャムを伸ばしながら答える。

飲み物は全員温かいコーヒー。

私は砂糖もミルクも入れるけれど、2人はストレートで飲んでいる。

「ダンスは完璧なのになぁ。
なぜか周囲の社交的な同い年の女性たちとは違う。
わたしたちは何か育て方を間違えたのだろうか。」

周囲の大人たちの考えを目の当たりにして、私は小さい頃から少しずつひねくれて育ってしまった。

かわいいかわいいと何をしても言われ、最初の頃は嬉しかったけれど、他に褒めるところがないだけだろうと気づいてしまったのだ。

「本当にね。リリ姉、毎晩鏡見てる?」

そんな話、確か去年もした。

リリ姉は毎晩鏡を見て自覚した方がいい!って熱弁されたっけ。

「えぇ、毎晩見てるわよ?」

あんなにきれいに磨かれた鏡だから、まつげの1本1本まではっきりと見える。

「なんか思わないの?美人になったなぁとか。」

カイは小さい頃は私のことが大好きで、ずっとついて回っていたらしい。

今ではぐさぐさと意見を言うようになってしまった。
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