Fall in Love. ~一途な騎士団エリートによる鈍感公爵令嬢の溺愛~
待ってもらおうか。
朗々と響く声がして足を止めた。
「待ってもらおうか。すまないね。
こんなに準備を進めていたとは知らなかったもんで。
とりあえず中止してもらおうか。」
トリトン王と並んでフォルティスがいた。
濃紺の団服を着こなして、立っていた。
髪を少し切って、心持ち痩せたような気がする。
今まで見たことがないほど鋭い目をしていたけれど、慌てて振り返った私と目が合うと、微笑んでくれた。
牢から無事に出ることができたのだ。
そして、どうにかこの場に忍び込んでくれたのだろう。
「カリオス帝国王サジェス様、送った書状の通りです。
産業大臣バレンシア殿を捕らえる許可を。」
トリトン王が国内の貴族全てが揃う場で、公にしてしまわないように、という気づかいをしていることが伝わったのか、神壇の上に座っていたサジェス王が立ち上がった。
覇気のようなものを纏っていて、立ち上がっただけでその場の空気が変わった。
「いや、それには及ばない。
バレンシアを捕らえよ!!」
方々で警護していたもののうち、4、5人がバレンシア大臣に近寄りがっくりと項垂れている腕を引き上げて縛った。
「皆のもの、集まってもらったのにすまない。
今日は解散して、後日全て公表する。」
サジェス王がそう言って、会場を後にするとトリトン王とシェヴァ王子はそれに続いた。
自分はどうしたらいいのかと呆然としていると、フォルティスが振り返り目があった。
つかつかとこちらに向かって近づいてくる。
どんな表情をしていたらいいのか分からなくて、涙が滲む。
「泣くな。遅くなって悪かった。」
目の前に立って涙を拭ってくれた。
答えようとしたら、ぶわっと持ち上げられて悲鳴をあげてしまう。
「落ちるっ!」
「落とすわけないだろ。
後少しで全部終わる。もう少し頑張ってくれ。」
こつんとおでこを合わせて言ってくれた。
「うん。」
すたすたと私を持ったままでも歩くのは早くて、フォルティスの後ろを追いかけている騎士たちは小走りだ。
応接間にたどり着くと、近くにいた執事らしき人が開けると同時に足を踏み込み、ソファーに座った。
王様2人とシェヴァ王子の前でも変わらない態度のフォルティスには舌を巻く。
手を引かれてシェヴァ王子の対極のソファーに座る。
もちろん、私はフォルティスの隣だ。
間がないほどぴったりに座られて、飛び退く。
「真面目な話をするのでしょう?」
「そうだ。
でも、離れたくないだろう。」
イチャイチャしてしまっていると、正面のシェヴァ王子の顔が切なそうに歪んだ。
ゴホンと咳払いしてトリトン王が切り出した。
「彼女はスタゴナ公爵家の長女、リリアンヌ嬢だ。
彼女の父親とこちらにいるフォルティス殿は先日、私を殺害しようとしたとして捕らえられました。
けれども、真犯人はバレンシア大臣でした。
彼は、スタゴナ公爵家当主デガンに遺恨があった。
デガンの妻は元々バレンシア大臣の婚約者だったのですね。
それが、こちらで開かれたパーティーで出会ったデガンに気に入られ、本人の意志と家族揃っての意見でバレンシア大臣との結婚を破棄し、デガンの元に嫁いだ。
彼はずっと長い間根に持っていたのでしょう。
少しずつつてを増やし、愛娘の結婚を妨害してやろうとした。
恥ずかしいことに私の娘や妻も協力したようで、
あまり偉そうには言えないのですが。
娘はバレンシア大臣と繋がりのあったワイバ伯爵に唆されたそうです。
取り返したらどうか、と。
しかし、フォルティス殿が靡かなかったことで当初の作戦から変更せざるを得なかった。
そこで、こちらの国で同じように娘との婚約を断ったシェヴァ王子との結婚を画策した。
違いますか?」
トリトン王の語りをじっと身動きもせずに聞いていたシェヴァ王子が突然その通りだ、と言った。
「私はセリーナという伯爵令嬢と5年以上付き合っていました。
彼女の家は代々王家の家庭教師としてお世話になっている家。
彼女のお兄さんは私の家庭教師でした。
それもあり、小さい頃からよく知っていて付き合いも長かった。
最近、王位継承の話と共にバレンシア大臣から自分の娘を妃にという話を持ちかけられましたが、当然断りました。
ところが、彼女の父親は財務大臣です。産業大臣であるバレンシア大臣とは対立関係にあります。
彼女と私が結婚すると自分では太刀打ちできなくなる、そう考えた彼は財務大臣が視察でこの国を留守にし、私もそちらの国に行っていた1ヶ月の間に、娘のミミーヌを王宮に送り込んだのです。
さすがに許せることではなく、事実確認後追い出しましたが、そちらの国にまで手を回していたとは知らず、リリアンヌ嬢の身柄を預かることになってしまいました。
リリアンヌ嬢にも心細い思いをさせ、迷惑をかけました。
帝国内のいざこざを国同士の問題にまで大きくしてしまい、申し訳ありませんでした。」
そう言ってシェヴァ王子が立ち上がり、頭を下げると父親であるサジェス王も一緒に頭を下げた。
「証拠を集めるのに手間取っている間に、そちらに助けてもらうなど、恥ずかしいことこの上ない。
国としてもなんらかのお詫びをするつもりです。
彼は断罪として流刑にします。
娘は国で1番厳しい修道院に送られることになるでしょう。」
そう言って、サジェス王は厳しい顔をしていた。
すぐに王様2人は宰相とともに話し合いをすると言って、執務室へ向かった。
残された私たちは、1つため息をついてシェヴァ王子を見つめた。
「待ってもらおうか。すまないね。
こんなに準備を進めていたとは知らなかったもんで。
とりあえず中止してもらおうか。」
トリトン王と並んでフォルティスがいた。
濃紺の団服を着こなして、立っていた。
髪を少し切って、心持ち痩せたような気がする。
今まで見たことがないほど鋭い目をしていたけれど、慌てて振り返った私と目が合うと、微笑んでくれた。
牢から無事に出ることができたのだ。
そして、どうにかこの場に忍び込んでくれたのだろう。
「カリオス帝国王サジェス様、送った書状の通りです。
産業大臣バレンシア殿を捕らえる許可を。」
トリトン王が国内の貴族全てが揃う場で、公にしてしまわないように、という気づかいをしていることが伝わったのか、神壇の上に座っていたサジェス王が立ち上がった。
覇気のようなものを纏っていて、立ち上がっただけでその場の空気が変わった。
「いや、それには及ばない。
バレンシアを捕らえよ!!」
方々で警護していたもののうち、4、5人がバレンシア大臣に近寄りがっくりと項垂れている腕を引き上げて縛った。
「皆のもの、集まってもらったのにすまない。
今日は解散して、後日全て公表する。」
サジェス王がそう言って、会場を後にするとトリトン王とシェヴァ王子はそれに続いた。
自分はどうしたらいいのかと呆然としていると、フォルティスが振り返り目があった。
つかつかとこちらに向かって近づいてくる。
どんな表情をしていたらいいのか分からなくて、涙が滲む。
「泣くな。遅くなって悪かった。」
目の前に立って涙を拭ってくれた。
答えようとしたら、ぶわっと持ち上げられて悲鳴をあげてしまう。
「落ちるっ!」
「落とすわけないだろ。
後少しで全部終わる。もう少し頑張ってくれ。」
こつんとおでこを合わせて言ってくれた。
「うん。」
すたすたと私を持ったままでも歩くのは早くて、フォルティスの後ろを追いかけている騎士たちは小走りだ。
応接間にたどり着くと、近くにいた執事らしき人が開けると同時に足を踏み込み、ソファーに座った。
王様2人とシェヴァ王子の前でも変わらない態度のフォルティスには舌を巻く。
手を引かれてシェヴァ王子の対極のソファーに座る。
もちろん、私はフォルティスの隣だ。
間がないほどぴったりに座られて、飛び退く。
「真面目な話をするのでしょう?」
「そうだ。
でも、離れたくないだろう。」
イチャイチャしてしまっていると、正面のシェヴァ王子の顔が切なそうに歪んだ。
ゴホンと咳払いしてトリトン王が切り出した。
「彼女はスタゴナ公爵家の長女、リリアンヌ嬢だ。
彼女の父親とこちらにいるフォルティス殿は先日、私を殺害しようとしたとして捕らえられました。
けれども、真犯人はバレンシア大臣でした。
彼は、スタゴナ公爵家当主デガンに遺恨があった。
デガンの妻は元々バレンシア大臣の婚約者だったのですね。
それが、こちらで開かれたパーティーで出会ったデガンに気に入られ、本人の意志と家族揃っての意見でバレンシア大臣との結婚を破棄し、デガンの元に嫁いだ。
彼はずっと長い間根に持っていたのでしょう。
少しずつつてを増やし、愛娘の結婚を妨害してやろうとした。
恥ずかしいことに私の娘や妻も協力したようで、
あまり偉そうには言えないのですが。
娘はバレンシア大臣と繋がりのあったワイバ伯爵に唆されたそうです。
取り返したらどうか、と。
しかし、フォルティス殿が靡かなかったことで当初の作戦から変更せざるを得なかった。
そこで、こちらの国で同じように娘との婚約を断ったシェヴァ王子との結婚を画策した。
違いますか?」
トリトン王の語りをじっと身動きもせずに聞いていたシェヴァ王子が突然その通りだ、と言った。
「私はセリーナという伯爵令嬢と5年以上付き合っていました。
彼女の家は代々王家の家庭教師としてお世話になっている家。
彼女のお兄さんは私の家庭教師でした。
それもあり、小さい頃からよく知っていて付き合いも長かった。
最近、王位継承の話と共にバレンシア大臣から自分の娘を妃にという話を持ちかけられましたが、当然断りました。
ところが、彼女の父親は財務大臣です。産業大臣であるバレンシア大臣とは対立関係にあります。
彼女と私が結婚すると自分では太刀打ちできなくなる、そう考えた彼は財務大臣が視察でこの国を留守にし、私もそちらの国に行っていた1ヶ月の間に、娘のミミーヌを王宮に送り込んだのです。
さすがに許せることではなく、事実確認後追い出しましたが、そちらの国にまで手を回していたとは知らず、リリアンヌ嬢の身柄を預かることになってしまいました。
リリアンヌ嬢にも心細い思いをさせ、迷惑をかけました。
帝国内のいざこざを国同士の問題にまで大きくしてしまい、申し訳ありませんでした。」
そう言ってシェヴァ王子が立ち上がり、頭を下げると父親であるサジェス王も一緒に頭を下げた。
「証拠を集めるのに手間取っている間に、そちらに助けてもらうなど、恥ずかしいことこの上ない。
国としてもなんらかのお詫びをするつもりです。
彼は断罪として流刑にします。
娘は国で1番厳しい修道院に送られることになるでしょう。」
そう言って、サジェス王は厳しい顔をしていた。
すぐに王様2人は宰相とともに話し合いをすると言って、執務室へ向かった。
残された私たちは、1つため息をついてシェヴァ王子を見つめた。