Fall in Love. ~一途な騎士団エリートによる鈍感公爵令嬢の溺愛~
「信じてなかったわけじゃない!」

私の言葉を遮って、大きな声を出した。

「それじゃあ、どうして言ってくれなかったの?

カイに聞いた私がどんな気持ちか考えてみてよ!

っ、もうやだ。

ごめんなさい、今日は帰って。」

泣かないで冷静に話を聞こうと思っていたのに、これじゃあただの八つ当たりでしかない。

「リリ!

どうしてそうなるんだ!?」

気持ちとは裏腹に自分の語気が強くなってフォルティスを傷つけている。

「どうしてですって?

お互いに信頼していないのに、結婚の話を前向きにするなんて無理よ。」

「あぁ、そうかもな。

俺は浮気野郎だと言いたいんだろ!」

「そうは言ってないじゃない!!

もう、出てって。お願いだから。」

お互いにいらいらして、大きな声で言い合ってしまった。

これ以上酷いことを言いたくない。

こんなことを言うつもりじゃなかったのに。








フォルティスが出ていった扉がそろそろと開き、マリンが驚いた顔で入ってきた。

「何があったのですか?

すれ違ったフォルティス様も様子がおかしかったですが、、、。

けんかでもなさいましたか?」

熱くて濃い紅茶を入れて差し出してくれた。

お礼を言って受け取ると一息で飲む。

深呼吸して説明した。

「っぅううぅ、、、ぐすっ。

けんかと言えるか分からないけれど、八つ当たりしてしまったの。

フォルティスが証拠を得るために、ハイネ王女と抱き締めたみたいなの。

それを、私に言ってくれなかったことがショックで、勢いで酷いことを言ってしまったわ。」

「それはフォルティス様も悪いですわ。

傷つけるかも知れないからとはいえ、黙ったまま結婚するつもりだったんでしょうか。

でも、もっと悪いのはリリアンヌ様です。

リリアンヌ様を助けるという目的のためにしたことだとを思い出して、踏み留まるべきでしたね。

こういうことは早めに謝るべきです。

リリアンヌ様が抱きついてごめんねと言えば、必ず許してくれちゃいますよ。」

優しく手を握ってなだめてくれた。

「すぐに許してくれるかは分からないけど、頑張って謝るわ。

まずは会いに行かないと。」

「そうですね。

お手紙でも送るといいと思います。」

マリンが励ますようにもう一杯入れてくれたので、ありがたく受け取ってハチミツをスプーン一杯分すくってかき混ぜた。

じんわりと心に滲みて、涙がでてくる。

ちゃんと謝って、許してもらおう。

そう自分と約束した。







それなのに、次の日の午後帰って来た手紙はフォルティスの字ではなく、家令からで、フォルティスが違法売買のアジトを叩きに行っていると、書いてあった。

さらに、いつ帰って来るかは書いていない。

がっかりしてしまった。

避けられている、とまで考える必要はないだろう。

しょうがないので、じりじりと焦りながら待つことにした。

ところが2日経っても音沙汰ない。





仕方なくシェヴァ王子に相談することにして手紙を送ると、鷹がすぐに戻ってきた。

連絡手段として、家に鷹が送られたとはいえこんなに早く返って来るのかとびっくりした。

読んですぐ送ってくれたのか、急いだ字だった。

『大丈夫ですか。

こちらの国への報告書は毎日来ています。

仕事が忙しいのでしょう。

あまり、焦らずに待っているべきです。

焦って行動しても、あまりいい結果はありませんから。

もし、考えるのがいやになっていたら、こちらへ遊びに来ませんか?

姉が久しぶりに帰ってきているので、貴女に会えたらきっと喜ぶと思いますよ。』

気づかいが端々に表れているけど、事実は伝えてくれていた。

報告書を書く時間はあるけれど、めんどくさい手紙は送りたくなくて後回しになっているということだろう。

考えれば考えるだけ、卑屈になっていることが分って嫌になる。

気分転換に長めにお風呂に入ったり、全身トリートメントしてもらったり、ずっとやっていなかった刺繍の本を開いてみたりしたけれど、もやもやしっぱなしだ。








お父様に会って話を聞いてもらおうと部屋の扉を遠慮がちにノックすると、すぐに開いた。

「リリ!久しぶりだな。

おまえが、自分からこの部屋に来たときはいつも何か悩んでいるときだ。

今日は何があったんだ?」

「お父様に、ちょっと相談があって。」

ふかふかの客人用のソファーに身を埋めて少しずつ話す。

しばらく静かに聞いていたお父様が穏やかに言った。

「結婚をやめるか?」

「えっ!?」

ぎょっとして聞き返すと、そんなに驚くか?と言われてしまった。

「リリが嫌がるならこの結婚はなしだ。

それに、リリに辛い思いをさせないという約束を破っている。

助けてもらった身だが、騎士団長になったんだ。

貴族の位ぐらいすぐに上げてもらえるだろう。

もし、身分を確立させるためにこの結婚を持ちかけたんだとしたら、断ってもいいだろう。」

お父様は私を試すような目をしている。

きっとこんな言い方をしているけれど、これはお父様らしい優しさだ。

「違うわ。フォルティスはそんなことしないわ。

私と結婚したいって言ってくれたのよ。」

「リリは甘いよ。

1度でも爵位なんていらないから2人で生きたいなんて言われてないんだろう?

騙されているのかもしれないぞ。」



「そんなことないわ!

そんなことを平気でできるような人じゃないもの。

お父様が私を心配してくれたのは伝わったから、ありがとう。

もう少し気長に待つことにするわ。」

やっと元気になれた気がした。

自分がお父様に上手く嵌められて口にしたことに驚いた。

私も心の中ではフォルティスのことを信じていたのだと。

「あぁ、それだけ信じているんだ。

もう少し信じてやってもいいんじゃないか?

私が捕まった時点で、爵位はなくなるだろうと思って逃げてもおかしくなかったのに、一生懸命証拠を集めてくれたんだ。

私は彼を家族の1人のように信頼している。」

息子を誇るような表情に私まで嬉しくなる。
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