夢物語
 ハンドルを握りながら、またつまらないことを考えていた。


 昔のことは振り返らないつもりでいたのに。


 もう二度と恋などしないと誓ったのと同時に、私は結婚という人生の選択肢を放棄してしまった。


 結婚という名の抜け道が存在しない以上、ずっと働き続けなければならない。


 この仕事をいつまで続けなければならないのか……。


 「……」


 出勤にはできるだけ混雑していない道を選んで進む。


 上手くいけば40分で職場に着ける。


 どうか今日も、何事もなく一日を提示で終えられますように。


 今日は練習日ではないので、急いで帰宅する必要もないのだけど。


 そうだ、今日は練習がなくてラッキーだった。


 さすがに昨日の今日では、どんな顔をして会えばいいのか、さすがの私も迷いが生ずる。


 どこまで平然としていられるか、自信がない。


 突然のキス。


 「……一線越えてみる?」


 あんな誘い。


 どこまで本気だったのか、いや最初からふざけていただけなのかもしれないけれど、あのような台詞が言葉として発せられただけでも……。


 もう今までの二人ではいられない。


 何もなかった頃には戻れない。
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