夢物語
 楽しかった集まりも終わり、一人の帰り道。


 車の窓を開けると、真夏の夜風が飛び込んでくる。


 口にも出せず、心の中に溜め込んでいた苛立ちも、ゆっくりと冷めていく。


 「この気持ちは、何……?」


 好きということ?


 ただそれは、手に入れたいだとか、付き合いたいだとかそういうレベルにまでは達していない。


 「そばにいたいだけ?」


 一緒の時を過ごしたい、ただそれだけなのかもしれない。


 でも今以上は、きっと許されない。


 彼女いるの知っていて、それ以上望んでは不幸を招き寄せる。


 「もうあんな思いは、絶対にしたくはない」


 遠い昔の苦い記憶。


 妻子持ちの人を好きになって、トラブルになって、友達も居場所も失くしてしまった。


 あの時誓った、もう二度と恋などしないと。


 人を好きになることで、何もかも失ってしまうのは本当に愚かなこと。


 一度目は破滅にまでは至らなかったけど、二度目はそうはいかないかもしれない。


 だから……、あの時以上の悲惨な結末になってしまうくらいなら、今のままで。


 友達のまま終わらせれば、私たちはきっと平和なままでいられる。


 今ならまだ間に合う。


 手遅れになる前に、私は膨らみつつある恋心に改めて封印の錠を落とした。
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