夢物語
 「そばにいたいって言われても。今でもそばにいるでしょ? それにサークル内ではいつも一緒なんだし、これ以上どうしたいと?」


 「そういう意味じゃないこと、冴香さんだって解っているくせに」


 そして私は腕の中に。


 「あの時も言いましたよね。……このまま一線を越えたい、って」


 腕の中の私に、耳元でこんなことを告げる。


 今すぐ突き飛ばして逃げ出すべきなのに、できなかった。


 その時背後で、ガサッと音がした。


 ちらっと振り返ったところ、木々の葉が重なった音のようで、誰かが近付いているわけではない。


 でもそろそろまずい。


 まずすぎる。


 「……こういうことは私とじゃなくて、他にすべき人がいるんじゃないの?」


 西本くんには彼女がいる。


 誰もが称賛する、若くて綺麗な彼女が。


 「確かに存在はしていますが、冴香さんも好きだって気持ちがもう止められないんです」


 八歳も年下のイケメンにこんなことを言われて、嬉しくないと言えば嘘になるけれど、諸事情を鑑みるとやっぱりこんなこと許されない。


 流されてしまっては、失うものが多すぎる。


 もう居場所を失いたくない。


 あの時みたいに……。
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