夢物語
 「少し時間をもらえないかな」


 この場を逃れるために、そう告げた。


 強烈に拒絶してしまうと、今後のサークル内の人間関係に影響を及ぼす。


 私が最も恐れたのはそれだった。


 「いつまで待てばいいですか」


 「……分からない」


 「僕もそんなに、気長に待っていられませんから」


 「……」


 それでいいと思っていた。


 私が返事を先延ばしにしているうちに、どうでもよくなってくれたら。


 そのまま元の状態に戻ってくれさえすれば。


 甘いシャンプーの香りを名残惜しく感じながらも、私はその場を離れた。


 二人同時にログハウスに戻っては、他のメンバーに怪しまれる危険性があるため、西本くんは少し後から戻るようだ。


 一人歩く私は夏の夜風に包まれ、森の香りに覆われながらログハウスのドアを開いた。


 「どこ行ってたのー! 失踪したかと思ったよ」


 小倉さんが私の姿に気付き、声をかけた。


 「ちょっと酔い冷ましに、夜風に当たっていました」


 「さ、まだまだ飲もう!」


 再び宴会に引きずり込まれた。
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