夢物語

***


 九月になってからも、相変わらずの毎日が続いていく。


 ときめいて、迷って、戸惑って……。


 今度こそ動き出そうと思うそのたびに、決心が揺らぐ。


 十代や二十代の頃と何ら変わらない、胸を焦がすような、甘くて苦い毎日……。


 夏はもう終わるのに、その名残惜しさだけを噛みしめながら。


 ……その夜は、寝苦しい夜だった。


 前夜もサークルの練習があって、西本くんが来ていて、何もないままに時間は過ぎ去って……。


 会うたびに切なさを感じつつも、どうすることもできずに持て余している気持ちを抑え続けることは、少しずつ苦しいものとなってきている。


 そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。


 夢か現か分からない時間が流れる。


 「!?」


 突如として、ものすごい力で引っ張られたような感覚で目が覚めた。


 「地震!?」


 部屋の本棚とCDケースが激しく揺れている。


 机の上のペン立てが倒れ、床に落ちる。


 凄まじい揺れの音がする。


 「やだ……、家、つぶれるんじゃない!?」


 過去最大級、私がかつて体験したことのないような揺れだ。


 震度四どころか、五か六に達しているんじゃないだろうか。


 家が倒壊してしまいそう。


 電気をつけっ放しで寝ていたけど、その電気も揺れの中で消えてしまい、辺りは暗闇に包まれた。
< 132 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop