夢物語
 「……まだ十一時ですが、このまま帰るんですか」


 田中さんの姿が、完全に夜の街へと消えてしまった時。


 ふいに西本くんが尋ねてきた。


 「もう十一時、じゃない? 明日、月曜だし」


 「いつもの飲み会だったら、日曜の夜であろうと十二時くらいまで騒いでますよね」


 「……」


 それは、大人数で盛り上がっている時のこと。


 二人きりでは到底、間が持たない。


 特に今の状況では……。


 時期が時期だけに田中さんと面識のあるメンバーがなかなか都合がつかず、私と西本くんしか揃わなかった。


 昨今の状況を鑑みて、賢人は誘うわけにはいかなかったし。


 街の中心部に宿泊する田中さんとは逆方向になるため、私と西本くんは途中まで一緒の帰宅となることは最初から予想がついた。


 「あ、」


 その時頬に、雨の雫を感じた。


 天気予報通り、雨が降り始めたようだ。


 「田中さんと飲んでいるうちに降り出さないで、よかったですね」


 空を見上げながら、西本くんが口にする。


 「私たちも急いで、」


 雨を避けて、地下鉄の連絡通路に向かおうとした時だった。
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