夢物語
 夢見る頃はとうの昔に過ぎたはずなのに、今さらこんなことに降り回されている自分に未だ実感がない。


 もう二度と、誰かの甘い言葉に気持ちが揺らぐことなどあり得なかったはずなのに。


 揺らぐ……。


 まさにその瞬間。


 地面がまた、揺れたような気がした。


 酔っているせい? それともまた……。


 「地震……?」


 「冴香さん、余震だ。しかも結構強い」


 西本くんが私を支えるため腕を伸ばしたものの、その前に私はバランスを失い、そばのレンガの壁にもたれかかった。


 「そこは崩れるかもしれない、こっちへ」


 なかなか揺れは収まらない。


 私の前では平静を装うものの、西本くんもかなり焦っているのだろう。


 この震度三程度の余震で、百年持ちこたえたレンガの壁が崩れるはずは……。


 いや、今まで大丈夫だったとしても、その間に何度か起こった地震で徐々に弱りつつあり、この余震が決定打となって崩壊する可能性も?


 「もういや……」


 思わず本音がこぼれる。


 なかなか終わりを告げず、頻発する余震。


 巷に流れる噂みたいに、今後さらなる大きな地震が発生するのかもしれない。


 そんなことはないと頭では分かっていても、繰り返される余震のたびに不安になる。


 そして今また、かなり大きい余震が。
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