夢物語
 「いつもそうありたいと願っていると、いつしか叶うものですよ。だから信じてみて」


 自分はあの男とは違うとでもいうの?


 どうしてそう言い切れるの?


 トラブルになって、いやそれ以前に気持ちが離れたりして気まずくなっても平気なの?


 信じても……いいの?


 「西本くん、」


 言いかけた時、携帯の着信音が耳に入った。


 腕の中から解放され、バッグの中の携帯電話を取り出す。


 さっきまで一緒に飲んでいた、田中さんからの着信だった。
 

 「高橋さん、大丈夫でした!?」


 心配して電話をかけてきてくれたようだ。


 「また停電になってエレベーターが使えなくなり、高層階に監禁されるんじゃないかって気が気でなかったですよ。高橋さんも気を付けて帰ってくださいね」


 通話を終えた際に携帯のディスプレイを見たら、時刻は23時40分を回っている。


 そろそろ駅に向かわないと、終電に間に合わない。


 「……冴香さん、さっきの余震の影響で、JRが一部運転を見合わせているらしいですよ」


 「えっ」


 私が田中さんと電話をしている間、スマホを取り出して彼女と交信しているのかと思ったものの、ニュース速報サイトをチェックしていたようだ。


 最初は西本くんが私を帰らせないために嘘をついているのかと勘繰ったけれど、それは本当だった。


 一部の路線が運転を見合わせているとのことだけど、そこのは私が乗るはずだった路線も含まれていた。


 しかも再開の見通しは立っていないと。
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