夢物語
 「……」


 助手席に深く身を沈めた瞬間、ふと現実に引き戻される。


 ……ここは私だけの場所ではない。


 「彼女」がいつも座っている場所なのだ。


 私はたまたま、試合会場への行き帰りに同乗させてもらっているだけにすぎない、ただのサークル仲間……。


 窓の外、流れる景色に目をやる。


 地方都市の夜の灯り……札幌には及ぶべくもないものだけど、こじんまりとしていてそれなりに綺麗。


 やがて市街地を通り過ぎ、町と町の間を埋め尽くす暗い森が広がる。


 ……それを交互に繰り返して、徐々に札幌が近付いてくる。


 札幌まで、二人きりの時間を少しでも長くするために、高速道路ではなく国道を走行している。


 明日は月曜日なので、今日中には帰らなければならないのだけど、無理矢理二人だけの時間を引き延ばすための悪あがき。


 きっと彼女には、「高速代節約のために国道使ったから、遅くなった」と言い訳をするつもりなのだろう。


 眠気覚ましと称して、窓を開ける。


 夏の終わりの夜風が、車に入り込んでくる。
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