夢物語
 「……焼き肉の際の買い出し担当って、いつも僕らコンビですよね」


 スーパーの入り口でカートを取り出しながら、西本くんが笑った。


 「私は、調理担当にはなれないから」


 料理は未だに母親に任せっぱなしなので、苦手というかほとんどやらない。


 「調理は主婦のみなさんに任せておけばいいんですよ。僕たちは好きなものを買わせていただきましょう」


 カートを引く西本くんに先導され、精肉コーナーへと向かう。


 「カルビとかラムとかでいいかな? あっ、国産や外国産にこだわる? 国産はやっぱり割高だよね」


 「オーストラリア産でもいいんじゃないですか?」


 「そう……。じゃこれなんか安いけど」


 「あ、高橋さん。それしゃぶしゃぶ用の肉ですよ」


 「そっか! ご、ごめん」


 ついでに、焼肉のたれだとおもってカゴに入れていたビンも、よく見たらしゃぶしゃぶ用。


 料理に関しては全く無知なことを隠そうとしても無駄な努力で、またしてもバレバレ。


 焼き肉のたれは、隣の特設コーナーにずらっと並んでいた。


 西本くんが手を伸ばし、高いところから一本手に取る。


 身長差は十センチくらいだけど、腕のリーチにはもっと差が出る。


 「高橋さんとお買い物すると、必ず面白いものが混ざっているから楽しいですね」


 「あはは……。いつもご迷惑をおかけしまして」


 イケメンの隣で苦笑いするしかない私。
< 17 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop