夢物語
 「もう終わり?」


 わずか十分くらいで、終わりの気配が感じられる。


 自宅近所の町内会主催の夏祭りにて打ち上げられる花火や、近くの高校の学校祭のフィナーレを飾る花火大会は、予算の関係などもあって十分くらいで終わりを告げる。


 この海辺の町の花火大会もそのようなもので、短い時間だった。


 そして再び秋の静かな夜空。


 休日の夜は刻一刻と過ぎゆき、今度こそ帰らなければならない。


 次にこうやって過ごせるのはいつ……?


 「……冴香さんをこのまま帰したくないって、言っちゃ駄目?」


 打ち上げ花火が終わった沈黙の中、久しぶりの言葉がそれだった。


 「え、」


 「これだけで終わりたくない」


 そして二人の距離は狭まり、再び唇は重なる。


 初めてのキスから何度かこうして繰り返してきているうちに、すっかり慣れてしまい抵抗なく受け入れられるようになっていた……。
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