夢物語
***


 「どうかした?」


 はっ。


 少し前の飲み会の席での話題を思い出して、ブルーになっていた。


 「い、いや別に。今日の試合のスタメンを考えていただけ」


 「中澤は普通に先発でしょ」


 「……」


 本当はサッカーのことを考えていたわけじゃない。


 あの飲み会での話題を機に、このままでいいのだろうかって迷いがいっそう強くなった気がする。


 このままでいいわけがない。


 いつまでもこんなこと続けてはいられない。


 いわゆる二股状態など、永遠に続けられるはずもないし。


 周りに気付かれるか、彼女にバレて大変なことになるか。


 そんな修羅場のようなことになるまえに、けりをつけるのが最善策なのだろうけど。


 離れたくない。


 ここまで来てまた、一人の毎日に戻るのはためらわれる。


 どうしよう。


 いくら私が離れたくなくても、それは西本くんの気持ち次第。


 このままでいいの?


 これからどうするの?


 私のこと……どう思ってるの?


 聞きたいことは山ほどあるのに。


 いつも口に出せないまま。


 言葉は飲み込んでしまったまま。


 何も言わないまま、今のままでいたほうが幸せなのかもしれない。


 自問自答しているうちに、車は札幌ドーム駐車場に到着した。


 これから二人でサッカー観戦。
< 178 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop