夢物語
 それからだった。


 誰も本気で好きになることができなくなったのは。


 あの人のことを忘れたくて、高校生になってからは常に彼女をそばに置くようになった。


 だけど誰も愛せない。


 退屈が怖くて、一人になるのが嫌で、適度に見栄えがよく、暇つぶしになるような相手を探した。


 父のものとなったあの人をそばで見ているのがつらくて、受験勉強を頑張って上京しようと思った。


 しかし残念ながら不合格。


 やむを得ず市内の大学に進学し、自宅から十分に通学圏内だったにもかかわらず、通学に時間がかかるなど理由をつけて一人暮らしを始めた。


 それまでは俺に遠慮して、あの人は家に入ることはなかったけれど、俺が家を出たのを機に一緒に暮らし始めた。


 母の思い出の残る家は、ちょうど老朽化していたこともあり取り壊して、新たな家を建て直して。


 かつての結婚相手も、その延長線上。


 大学時代の同級生で、次の相手を探すのも億劫になってきたころ合いだった頃もあり、馴れ合いでズルズル付き合い続け、そのまま結婚にまで至ったのだけど。


 どんなに長く付き合っても、結婚生活はまた別物だった。


 生活を共にするうちに生じた違和感は、次第に埋められないものとなっていき……別れた。
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