夢物語
 「ぎゃっ、賢人。火事になる!」


 「わっ、こりゃやばい」


 賢人が箸でつまんだ肉の油が網の下に落下し、炭の焚き付け材となったため、いきなり炎が飛び上がった。


 賢人と同時に肉を取ろうとしていた塩田さんはびっくりして手を引っ込め、事なきを得る。


 「全く、賢人は『炎を呼ぶ男』だね。いつぞやのサークル合宿の際も……」


 「またその話ですか」


 サークル合宿にて、賢人が火おこし係だったのだけど、着火剤の量を間違えて炎が巻き上がり、ログハウスのバルコニー部分の屋根まで到達しそうな勢いだったとのネタに。


 おかげで話題が逸れてくれて安堵。


 するとそのサークル合宿とやらは、十年前のことであるという発言があって。


 「最近はサークル合宿やってないんですか?」


 私が質問したところ、


 「そうだね……。そのサークル合宿がきっかけで、あの不倫騒動に発展したといってもいいくらいだから」


 ここで今度は、不倫騒動の話題に急展開。


 十年前のサークル合宿で例の二人は盛り上がったようで、合宿を終えた直後に「そういう関係」に突入したとのこと。


 それで部長の升田夫妻も嫌気がさしてしまったらしく、翌年から今年に至るまで長い間、合宿は再開されていないという。
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